2006/04/08 火打山、敗退。

2006年04月08日 13:21

この内容をUPするのを悩んだけれど、
やはり私自身、この日の事は忘れてはいけないし、
バックカントリーに入る人に、私のような経験をして欲しくないと思うところから
UPする事にしました。無謀な行動であったと思うので反省してまふ。
何かアドバイスや意見がありましたらご遠慮なくどうぞよろしくお願いいたします。
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この週末は火打山を滑る予定だった。(ツアー人数2人)
計画していたコースは、
初日、杉ノ原のスキー場トップ〜三田原山〜三田原北西斜面を黒沢池へ〜
茶臼近辺を登り〜高谷池ヒュッテ到着。
翌日に火打山〜下山。

しかし、予想をしていない事がついに起こってしまった。
土曜8時、杉ノ原スキー場で待ち合わせ、車を一台別なところへデポ後、
準備をしてゴンドラへ。
そして高速リフトを1本乗り継ぎゲレンデトップへ到着。
その後シールをつけ、三田原山へと向かった。
三田原山へ向かうには、ゲレンデを越えたすぐ先に大きな沢がある。
この沢では過去に事故が起きているらしい。
この沢を越えようと、最初の一歩を踏み出したとき、
深さ30cm位の表層雪崩が起こった。
しかし、ごく小さなモノ。幅はスキーの幅程度だったので先へ進むことにした。
何度もずりずり落ちそうになるのを堪えながら沢を超えた。
この時点で止めるべきだった。

しかし、その後雪が安定してきたので、先へさらに向かってしまった。
三田原山頂までの道のりは遠かった。とは言っても山頂には立っていない。
山頂に向かう途中は、激しい風が吹いていた。
高度を上げれば上げるほど風は強くなっていた。
風のせいで斜面はガチガチ。板では登れない。ツボ足で登った。
斜面は結構急で、風に吹かれて体勢を崩せば滑落だ。
必死な思いで登った。
山が怒っている。そんな事も思った。
この時はまだ視界がよかった。
ヒュッテまでは行けるだろう、ということでさらに進んだ。
しかし、1時ごろ予想をしていなかったことが起こってしまった。
前を行く友人を見失ってしまったのだ。
急に視界が悪くなり、数メートル先を行っていた友人の姿が見えなく
なってしまった。
トレースを探すが、風のせいでトレースはすでに消えてしまっていた。
見失う前に、”ちょっと高度を下げる”と言っていたので下を探すが
視界の悪さとゴーグルをしていなかったせいでまつげが凍ってしまい良く見えない。
とにかくここに居ることを伝えなければ。と笛を吹いた。
何度も何度も。
しかし人が現れる気配はない。
少し移動して探してみるがやはり見えない。
そのまま高度を下げずに行ったのか。
その方向へ向かってみるがやはりトレースは見えない。
何が起こったのか良く分からなかった。
けれど笛に気づいて戻ってきてくれるかもしれない。
あまり動かないほうがいい。
そう思って逸れた場所で吹き続けた。
しかし、気配はなかった。
自分とは異なる笛の音が一瞬したようにも思い、耳を傾けたが、
風が作っている音のようにも聞こえ混乱した。
友人の携帯に連絡をしたが、連絡がつかず、
今回、ツアーに参加しなかったKちゃんに連絡。
しかし寒さのせいで電源容量が。
一度つながりはしたものの、Kちゃんの”もしもし”という声が聞こえた瞬間に
電源容量が無くなった。
もー助けを呼ぶこともできない。
どーして良いか分からなくなった。
逸れてから数十分は経っただろうか。
しかしここでじっとしているのも危険だ。
そこで下山する決心をした。

標高たぶん2200辺り。
とにかくトラバースをして、リフトトップまで戻り、
逸れてしまったことを伝えなければ。
そう思う一心でトラバースをした。無我夢中。
三田原山はこの日で4度目。リフトトップは1850。
2200の時点に居たのならば標高を下げなけらばならないはずだった。
が、そんな事を考える前に、目の前に大きな沢が見えた。
2200の標高でこんな沢があったか?
この沢は超えられないと思い、少し戻ろうとした瞬間に、
表層雪崩を引き起こし流された。
最初、勢いは速かった。
どーなってしまうんだろう?そんなことを考えていたら速度が落ちた。
ガチガチの斜面の上に積もった雪は、割と湿っていた。
たぶんそのおかげで止まったのだろう。あとは地形のおかげだろう。
すこし緩やかな斜面になっていた。
そこでようやく地図とコンパスを見ることを思い出した。
自分では混乱していないと思っていたのに、
基本的なことをすっかり忘れていた。
見上げてみたら、高い位置に雪屁が微かに見えた。
三田原でこんな位置関係で雪屁を見たことがない。
地図とコンパスを見た。
自分の居る場所はだぶんとしか特定できなかった。
地形がはっきりと見えなかったから。
雪崩に流され、斜面に近い目線になったら、ほんの少し斜度が見えた。
まだ流されても大丈夫だろう。
自分のいる位置もはっきりわからないのに、なぜそう思えたのか。
自ら表層雪崩を引き起こしながら高度を下げた。
しかし、このまま行っても先に何が待ち受けているかわからない。
立ち上がり、トラバースしようと2歩、3歩。
次の瞬間に亀裂がはいり、幅5、6mくらいが落ちた。
表層雪崩。
予想をしていたのと、下のガチガチな斜面がしっかりしていたので
今回は流されなかった。
しかし目の前の斜面が一気に落ちたのには衝撃を受けた。
ガチガチの斜面を削るように高度を下げた。
少ししてまた雪崩とともにお尻で滑るように座り込んだ状態で高度を下げた。
立った状態で体制を保ちながら流されるより楽だった。
少しでも体力を使いたくなかった。

2000くらいまで高度を下げただろうか。
少し斜面が緩くなり、雪も落ち着いてきた。
立ち上がり、再び歩き始めた。
しかし、自分の居場所がやはり特定できずにいた。
とにかくリフトトップへ辿りつくためには、1900ぐらいまで高度を下げ、
最初に通過した危険な大きな沢を見つけなければと必死だった。
少しずつ滑りそして東へ東へトラバースをした。
途中何度も、見たことのある木を見つけ、このルートで良いのだ。
と思ったがそれは勘違い。

逸れた友人の顔が浮かんだ。
友人は経験豊富なので、高谷池ヒュッテに到着していることだろう。
でも夕飯の食材はすべて私が持っている。
指が寒さで痛いとも言っていた。
大丈夫だろうか.....
もし私をずっと探していてたら.....
何かあったらどうしよう。もう会えなくなってしまうのだろうか。
いや、友人は経験豊富な人だからきっと大丈夫。
そう信じるしかなかった。
その後、1mくらいの木が、
逸れた友人が先回りをして待っている姿にも見えたりして..
大声で叫んだり..しかし返ってくる声も動きもなく勘違いだと気付いて...。

別な友人達の顔が浮かんだ。
先週、先々週のテレマークのイベントは楽しかったな〜
一昨日会ったテレマークのイントラの方々の顔。
そー言えば、地図に磁北線が引いてないね〜って怒られたな〜
私が居なくなったら、そう言うことを言われるのだろうな〜
三田原の風のある日は特に厳しいので止めた方が良いと
誰か言ってたな〜
いろいろな事が浮かんだ。
特に両親にはいつも、ニュース沙汰にだけはならないように気をつけろと
言われていたのに、あ〜あ〜

途方にくれた。
もうだめなのかな〜と口に出してみたり
しかし、なぜか死ぬ気がしなかった。
絶対何とかなると、なぜか思っていた。

しかしこの天候。
どこかでビバークしたほうが良いのかな。
こんな時は動かないほうが良いと聞いたことが有る。
しかし、ビバーク経験はない。雪洞を掘ったこともない。
凍えた状態で朝まで過ごすのは無理。

有りがたいことに、まだ疲れていなかった。
まだ歩ける。
3:30ごろ一瞬視界がよくなった。。
その間に360度を見回した。
すると、後方に非常になだらかな丘のような地形を見た。
そして丘を見上げた左に大きな沢を見た。
地図を見た。
1900付近でこの地形。
たぶんリフトトップの50m前後上。
そう思い、滑り降りる。
しかし1850m付近になってもリフトは見つからなかった。
もう仕様がない。
沢沿いを下山しよう。
沢沿いを下山すれば、とにかく林道に出る。
沢を見失わないように、慎重に順調に高度を下げていった。
1450付近に辿りつき、見たことのある杉林にでた。
このまま行けば林道。
そしてまもなく林道にあたった。
ようやく助かったと思った。

時間は4時を過ぎていた。
電話のある場所に早く辿りつきたかったので、ひたすら林道を歩いた。
そして、杉の原のリフト乗り場の近くにあったレストランに駆け込み、
事情を説明して電話を借りた。
友人の携帯にかけたが留守電に。
そのため留守電に、自分の携帯が使えないのでKちゃんに連絡してと。
その後Kちゃんに連絡。連絡が入ったらレストランに連絡してほしいと。
どうしよう...私を探してまだ山にいたら...
少ししてレストランに電話がきた。友人からだった。
声を聞いて涙が出た。
大丈夫だと信じてはいたけれど、声を聞くまでは。
友人はすでに下山していた。
その後、レストランまで迎えにきてもらい再会した。
涙がでた。

逸れてしまったときは、やはり少し高度を下げ気味でトラバースをしていたらし
い。
笛も、私の音に気づき、吹き返していたらしい。
あのときの音は勘違いではなかったのだね。
その後、数十分に渡り、ビーコンで私を探してくれていたらしい。

私は、逸れた時どーすれば良かったのか。
今回私のとった行動はどーだったのか。
その前に、天候や雪質から止めるべきではあったのだけれど。

今回の経験から、以下のことは忘れてはならない
1、天候の崩れる日は入山しない。
2、入山前に、最悪の事態や、起こりうるすべてのことを
  シュミレーション(対策を考えておく)しておく。
  例えば今回の場合、逸れた場合のこと。
  逸れたら、下山するとか。
  笛の合図を決めておく。
  鳴らし方によって、下山する。少し待って。とか意味を決めておく。
3、雪崩は滑走時だけに起こるものではない。
  入山したらば、常に雪崩の危険を考える。
4、雪崩、地図読み、ビバーク方法その他、
  危険判断や自己で対応できる能力を身につけておく。
5、無線を持つ。

バックカントリーの魅力に撮りつかれてしまった人は、
ガイドツアーを経て、自力で行きたいと思うようになる。
私のような経験をする前に、気をつけてほしいと思う。
私は本当に運が良かった。
少しでも危険を感じたら、戻る勇気を持とう。
テレマークは楽しい遊びなのだから!

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